港の目の前に広がる佐世保朝市は、夜明け前の静かな空気の中で始まる特別な場所です。まだ街が完全に目覚める前、やわらかな光に包まれた港を眺めながら歩く時間は、ここでしか味わえない贅沢なひととき。
一般的な屋内市場とは少し違った表情を見せてくれる佐世保朝市。場内では、早い店で朝4時前から準備が始まり、次々と商品が並びます。お惣菜屋さんや昼の定食屋さんが朝5時頃に買い付けに訪れるなど、ここはまさにプロたちが集う「食の現場」です。
お魚天国を歩く
少し歩みを進めると、新鮮な海の幸が並ぶ鮮魚のエリアが見えてきます。
60年以上続く老舗「田中鮮魚店」では、ご姉妹が笑顔で迎えてくれました。ここの魅力は、お魚を選んで『この料理にしたい』と伝えれば、下処理をしてくれるところ。魚の扱いに慣れていなくても、プロの技で美味しい状態にして持ち帰ることができます。
さらに進むと、「野田鮮魚店」があります。ここには網ではなく「釣り」で獲れた鮮度抜群の魚が多く並びます。いけすには生きたタコがいて、大きくて立派なタイラギ(平貝)や、珍しい甘鯛が1匹丸々売られていることも。
切り身ではなく「一匹丸々」の姿が並ぶ光景は珍しく、小さなお子さん連れの親御さんが食育として、水族館代わりに魚を見せに来ることもあるそうです。 旅行中の方でも安心なのが、田中鮮魚店や野田鮮魚店では冷蔵のクール便での地方発送に対応していること。一度注文して気に入れば、「また良い魚が入ったら送って」とお願いすることもできるのだとか。
朝市の魅力は、海の幸だけではありません。
3代続く「池田青果」さんでは、西海や針尾などで採れたみかんやほうれん草にキャベツ、平戸特産の平戸ロマンなどが並びます。袋やカゴに盛られた野菜が「100円」で販売されており、これが朝市名物として大人気です。
また、朝市には大村や小値賀など様々な産地の野菜はもちろん、フルーツも豊富。“柑橘”だけでも数種類あり、フルーツサンドのお店が仕入れに訪れるそう。
乾物を扱う「美よし水産」さんでは、お客さんの要望に合わせてちりめんやいりこを小分けにしてくれるなど、対面ならではの柔軟なやり取りが交わされています。
歩いていると、高島から船に乗って海を渡ってくる名物「高島ちくわ」に出会いました。
お店の方の「ちくわ愛」は深く、美味しい食べ方をたくさん教えてくれます。 イチオシは、輪切りにしてバターで炒め、青のりをまりものようにたっぷりかけるアレンジ。魚の風味が強いので、バターや青のりに負けず絶品です。また、開いてケチャップとチーズを乗せ、ピザトースト風にして焼くのもおすすめで、ブラックペッパーをかければ高タンパクなお酒のおつまみになります。
朝市にはその場で食べられるお惣菜も充実しています。小腹を満たしながら市場を歩く時間は、観光というより“生活に入り込む体験”に近い感覚です。
朝から緊張感MAXのせり市で、欲しいものをお得にゲット。
カランカラン!
そして、佐世保朝市を語るうえで絶対に外せないのが、毎週第2・第4土曜日の朝6時半から開催される「せり市」です。
さあ!せり市のスタート!
カランカランという鐘の音を合図にスタートし、欲しい商品があれば手を挙げて金額を提示します。本来は業者同士で行われるせり市に一般の人でも気軽に参加できるのは非常に珍しく、少しずつ値段が上がっていく独特の緊張感と高揚感が醍醐味です。
本当の豊かさとは「早起き」なのかもしれない
「どこ産?」「いつが旬?」といった会話を楽しみながら買い物ができるのが、朝市最大の魅力です。長年通う常連さんが「ここは人生の縮図よ」と語るように、ここには豊かな人間模様があります。
時代とともにお店の数は減ってきていますが、現在残っているお店は、えりすぐりの食材を提供する「佐世保の美味しいものの台所」です。 少しだけ早起きした朝。港の風景と、人の営みと、食の豊かさがゆるやかに重なり合うこの場所で、特別な時間を味わってみませんか。

